So-net無料ブログ作成

セレクトセールと「ザルソバの2017」 [競馬]

ちょっと前の話になっちゃうけど、7月の10日(月)、11日(火)に苫小牧市のノーザンホースパークで行われたセレクトセールに取材で行った。で、その中で出会った、ちょっとしたことなんだけど、なんだか妙に印象深かった話をひとつ。

セール前日の金曜日、翌日に上場される馬を馬主さんたちが牧場へ下見に行くのに同行したんだけど、そこでなんだか気になってしょうがない馬がいた。社台ファームの当歳馬(今春、生まれたばかりのまだ数ヶ月の仔馬のことね)で、「ザルソバの2017」という馬だ。ちなみに「ザルソバ」は母馬の名前で、「2017」は生まれ年。基本的にサラブレッドは1年に1頭しか仔を産まないので、こうすることで馬名が付けられていない馬を呼び分けているわけだ。

気になったのは、その馬の父が、今年初めての産駒が生まれたスピルバーグだったからだった。

馬を見る目なんてぜんぜんないし、見分けられたとしてもせいぜい競馬場で走っている馬たちくらい。仔馬のうちに「うむ、こいつはきっとダービーを勝てる!」なんて言えたらいいけど、そんなことできるわけない。それでもやっぱり、競馬場で見ていた馬が父や母になって、どんな仔を出すのかはすごく興味があるのだ。ちなみにスピルバーグは初年度に101頭に種付けしているから、産駒はそれなりにいる。でも今回のセレクトセールに上場されているのは、この1頭だけだった。僕は、「どれどれ」という気持ちで、この「ザルソバの2017」を見てみたのだった。

ちなみに(「ちなみに」ばっかりだな)母のザルソバは、アメリカで生まれ、フランスで走った後、母になるべく輸入された馬。なんだけど、馬主は現役時代から社台ファームの吉田照哉さんで、だからこういう名前を付けられたのも、まあ納得できる。父がザルカヴァなんかを出しているザミンダーという種牡馬で、そこからの連想なんだろうけど、それにしても気になる名前ではある。機会があったらこのへんの命名については伺ってみたいところだね。

目の前で見たスピルバーグの初年度産駒は、僕的に、すごくスピルバーグの仔っぽくて、なんだか嬉しくなってしまうくらいだった。

2014年天皇賞・秋を制したスピルバーグは、前脚にすごく特徴のある馬だった。脚先の「繋」の部分がすごく長くて、そこが「びよん びよん」という感じでクッション性の高さを感じさせる、独特な動きを見せていた。パドックで歩くのを見ていても、あ、これスピルバーグだ、とすぐにわかった。

下は、種牡馬入り後の、社台スタリオンステーションでの映像だけど、たぶんこれだけでも、その独特な前脚の作りと脚の運びは伝わるんじゃないかな、と思う。トウカイテイオーの後脚とか、脚が曲がっているせいでガニ股になっちゃうハーツクライとか、特徴的な歩き方をする馬はたまにいるけど、間違いなくそんな1頭だ。



そして「ザルソバの2017」が、このスピルバーグそっくりの前脚と歩き方をしていたのだ。もちろん、だからといってこの馬が天皇賞を勝てる器だとかそういう話ではまったくないんだけど、それでもやっぱり、嬉しくなるなというのは無理な話だった。だって、そうじゃないですか?

「ザルソバの2017」が上場されたのは、この2日後、火曜日だった。当歳馬セッションが行われるこの日は、セール開始2時間前から、林の中に200頭以上の全馬をずらっと並べる比較展示が行われる。こんな感じだ。

2日目_当歳下見.JPG

セールでは1頭ずつ見ることしかできないので、購買する馬主さんにとっては、最終判断を下すための貴重な時間だ。僕も北海道の朝の気持ちいい空気の中、キタサンブラックの弟とか、2日前に見ることができなかった馬を見たり、知り合いの牧場関係者に挨拶をしに行ったり、うろうろしながら楽しんでいた。

それでもやっぱり気になっていたのは、「ザルソバの2017」だった。別にもう一度見たからといってどうにかなるわけではないけど、なんとなく気になる。行ってみると、相変わらずスピルバーグそっくりの前脚の出し方で歩いている。いいなあ、嬉しいなあ、と思いながら見ていると、そこに誰かがやってきた。購買のための下見の馬主さんではなかった。

それは、北村宏司騎手だったのだ。スピルバーグにはデビューした頃の調教からずっと携わり、2014年秋、ついに天皇賞馬となった際にも手綱を取っていた同騎手が会見で見せた、自分の8年ぶりのG1勝ちなんてことより、とにかくこの才能がありながら体質の弱さから出世の遅れた相棒の勝利を心から喜んでいる感じは、今もすごくよく覚えている。

馬が売られ、購入される場であるセレクトセールは、馬主や生産者、調教師が一同に集結することで、年に一度の盛大な社交場のような機能も担っている。騎手も、基本的には来なくてはいけない用事はないのだが、たくさんやって来る。今年もたくさんいた。武豊もいたし蛯名正義もいた。福永祐一も川田将雅もいたし、横山典弘も見かけた。列挙なんてしきれないくらいいた。

でも、基本的にはみんな関係者との交流が目的で、朝の展示に来る騎手はあんまりいない。僕がびっくりして挨拶すると、北村騎手は僕と、馬を引いている担当者に、スピルバーグの仔が出てるって聞いたから、会いに来たんですよ、と言って笑った。

2日目_当歳下見ザルソバと北村.JPG

この仔、前脚なんてスピルバーグにすごく似てると思うんだけど。そんなようなことを言うと、北村騎手は、ああ、そういうのより、とにかく顔を見たくて来たんですよ、と言った。そして、おお、可愛いな、よしよし、などと言いながら何度も仔馬の首を抱いた。

これは密かな持論なんだけど、人間とサラブレッドの、その人生、馬生のサイクルが異なっていることは、その異なり方も含め、間違いなく競馬というスポーツの奇妙な魅力の、大きな部分を占めていると思う。

馬は生まれて2年で「選手」となり、そこから3、4年、どんなに長くても6、7年で競技を終える。そこから種牡馬となり、繁殖牝馬となり、種付けして1年でまた仔が生まれる。人間に比べれば短いサイクルだけど、でもそのサイクルが1つ、2つと終わるのを眺めていると、僕たち人間の方も、いつの間にかそれなりに人生における時間が過ぎていることに気づく。成長したり、苦しくなっていたり、あるいはタイミングによっては激変していたり。

競馬だけじゃない。プロスポーツの世界にはそれぞれ「競技年齢」があって、例えばサッカー選手は、三浦知良みたいな特殊な例は別として、普通は10年から20年くらいで次の世代に入れ替わっていく。相撲もそんなもんだろうか。野球は、もう少し長い印象かな。ともかく、観戦する者の人生よりも「選手」の人生のサイクルは微妙に短く、それが長期的なスポーツ観戦の楽しみを生み出している面はある。そんな中でも、競馬のサイクルは特別に、そして例外的に短い。

人間と人間の関係では、同じように時間が過ぎていく。でも、馬と人間は違う。1頭の馬は、1人の人間の、ある限定された一時期をともに歩み、去っていく。そしてまた僕たちは、次の世代の馬たちと、ある限定された一時期をともに歩む。その繰り返しが、つまり人間と競馬の関係の本質なんだと思う。たぶん、僕が血統の話が好きなのも、そういうところに根があるんじゃないだろうか。

「ザルソバの2017」は、「トーセン」の冠でも知られる島川隆哉さんの(株)ジャパンヘルスサミットに、4900万円(税別)という高値で購買された。けっこう激しい競り合いが続いた末の落札で、自分の馬でもないのに、おお、人気者じゃん、と意味なく嬉しくなったしりて。順調に行けば、デビューは2019年。楽しみに待ちたい。

にほんブログ村 競馬ブログへ
にほんブログ村

nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:競馬

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。